淫夢の果て 1
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★久しぶりの書き下ろし作品です。短編を想定していましたが、それよりは少し長くなるかもしれません。しばらくお付き合いください。あんぷらぐ(荒縄工房) 淫夢の果て 1、穴 すさまじい淫夢だった。北沢怜子は、こんな夢は見たこともなかった。 全裸に、股間に食い込むビニールのような柔らかでツルツルした素材で作られた紐パンツ。そんな恥ずかしい姿でベッドの上に大の字になっていた。シーツに貼り付いたように肉体を動かすことができない。膣からも肛門からも、大量の白濁した粘液が溢れていた。それでいて、自分は何も感じない。なにが起きたのかもわからない。ただ途方に暮れている。そして「これだけ恥ずかしいことをしたら、もう私には恥ずかしがることなんて何もないんだ」と自分に言い聞かせていた。 朝になったら、シーツやパットを剥いで洗濯しなければならない。その前に、股間にあふれたこの忌まわしい粘液をどう処理すればいいのか。拭きとるのも嫌だ。指で触ることもできない。浴室へ飛び込んで洗おう。それしかない。だったらシーツを剥いで身にまとって立ち上がればいいのではないか。いっそうのこと、このシーツはこのまま捨ててしまえばいい……。 淫夢は妙な現実感を伴っていて、しばらく指一本、動かせなかった。それでもすんなり手は動くことがわかり、怜子は指で股間を探った。いつものパジャマ。下着もしっかり身についていた。どこにも粘液は感じられず、夢だったことにホッとする。そんな夢を見たことが恥ずかしい。羞恥心はなくなるどころか、さらに鋭敏になっている。 スマホで午前五時過ぎだと知る。遮光カーテンの向こうはまだ暗いだろう。隙間から漏れる光がない。 隣に寝ている北沢貴史の存在に気づき、怜子はハッと息を飲む。 つい三日前まで、貴史は怜子にとって最愛の夫だった。だが、いまそこで静かに寝息を立てている彼は、怪物だった。恐ろしいことが起きた。この三日間で。三連休の間に。 「ごめん、仕事なんだ」 貴史は連休中に映画を見に行くこと、ホテルのレストランで食事することは約束してくれたのだが、旅行は無理だと怜子に謝った。旅行といっても計画性のあるものではなく、クルマでドライブをし、日帰りでもいいから楽しもうとしていた。行った先でラブホにでも入って泊ってもいい。三連休では混雑して無理かもしれない。だったら道の駅に寄って買い物をして帰ろう、よく知られたうどんのチェーンで食べてもいいし、などと話していた。久しぶりに遠出をしたい気分だった。 それがダメになった。 「残念だわ。私、なんにもすることない」 「ごめん、今回はどうにもならなくて」 ネットを使ったサービスを提供するIT関連の会社に勤める貴史は、この二年で異例の出世をして年収は入社時のほぼ倍にもなっていた。四つ年下の彼は、怜子から見ればいつも可愛い存在で、見飽きない。二人の結婚は間違っていなかったのだと日々、噛みしめていた。 このまま会社の業績が伸びていけば、いまより広いマンションへ引っ越すことも考えられた。いよいよ子どもを設けることも現実的になってきた。昨年までの経済力では、二人合わせたとしても、とても子育ては無理だと考えていた。休職や産休制度、収入減、将来を考えると現実的ではなかった。 だが、いまでは貴史ひとりの収入だけで、当時の二人分を超えていた。 絵に描いたような家族の未来を怜子は描いた。 それがこのわずか三日の間で完全に壊れてしまったのだ。 「怜子さん。あなたの夫が、この三日間、なにをしていたかご存知?」 土浦美香が連休三日目の昼に、怜子しかいないマンションへやってきた。ネット配信動画やサブスクの映画も見飽きていた。 美香は、怜子と貴史が知り合った前の職場で二人の上司だった。管理部門で活躍している美香は、怜子より十歳は上だったが若々しく、いわばお手本として存在していた。怜子はいつか自分もああなるかもしれない、と希望を持ったこともあった。 残念ながら前の職場は投資ファンドによって買収されたあとにバラバラに切り売りされてしまい、美香たち役員一歩手前だった優秀な者は別の会社へと引き抜かれていった。貴史は美香の勧めた企業へ転職した。怜子は残った。幸い、怜子の仕事はほとんど変わりなく継続されていたので、給料も変わらなければ客先も変わらなかった。いずれ大きな改革が実施されると噂され、経営陣もことあるごとにそれを示唆していたが、具体的な業務の変化はないままに過ぎていた。人だけがどんどん入れ替わっていく。ここにいても将来が見えないからだ。 「久しぶりにあなたの顔が見たいわ」と美香からメッセージを受けたとき、怜子は心が高鳴った。もしや美香のいま居る企業への転職を促されるかもしれない。取り立てて実績も資格もない怜子にとって、元の職場に残る以外の選択肢はなかった。それをいまも悔しく思っていた。いままで同じ職場で働いていた者たちが、実はどんな修羅場に直面してもどこ吹く風のような優れた人たちだったと気付かされて、怜子は自分の無能さに愕然としたのだ。 もっとも、あれから怜子は少しでも夫の貴史や美香たちのような専門性を深める方向へ進むべく努力をしたわけではなかった。むしろ挫折したかのように現状維持路線にしがみついた。自分はいい。夫が活躍してくれればそれでいい、と割り切った。 相変わらずきれいに化粧を施しカジュアルとはいえハイブランドのファッションでやってきた美香は、怜子の好きなケーキ店の果物たっぷりの色鮮やかなタルトを手土産に持ってきた。 「まあ、奥様」と美香は怜子のことをからかう。 「やめてください」と怜子は笑う。 「いいじゃないの、ほんとに、すっかり奥様っぽくなって。落ち着いているみたいね」 「ありがとうございます。なんとかやってます」 「貴史さん、いまの会社で評価が高いんですってね」 「え? どうしてそんなことを?」 「ふふふ。驚いたわよ。いまの彼の上司、角多ってヤツなんだけど、私と大学時代に同じ研究室にいたのよ」 「そうなんですか」 「いまもその頃の仲間たちとは情報交換しているの。まさか貴史さんが角多のいる会社へ移って、部下になるなんてね。世間は狭いわね」 「知りませんでした」 「いいのよ、そんなことは」 とりとめのない会話。怜子は最近凝っているハーブティーを出し、二人でタルトを食べ、旧交を温めた。「あの頃」の思い出話だ。怜子は、美香も知っているであろう人物の現況を伝える。「まだあいつ、そんなことやってるの」「えー、結婚したって本当?」といった会話。 それも一段落すると「今日ね、あなたにちょっとショックなことを伝えに来たんだ」と美香は言う。 「仕事のことですか?」 「違うの。貴史さんのこと。本当に信じがたいことなんだけどね。彼の上司になった角多ってちょっと不思議な男なの」 「私は存じ上げなくて」 そう言えば新しい職場のことは何も知らなかった。彼は忙しすぎ、大変そうではあった。家庭では、出来るだけ休めるようにしてあげたかった。 「こういう感じの人なのね」 美香は自分のスマホを怜子に見せる。ガタイのいい中年男。きれいに肌を焼いている。角刈りで作ったような笑み。薄く開いた唇の間から頑丈そうな真っ白な歯が見えた。姿勢のせいか、仕立てたスーツのせいか、胸板の厚さを強調している。 「押しの強そうな……」と怜子。「あ、すみません」 「フフフ。いいのよ、その通り。強いヤツなんだ、これが。なにを根拠にって思うけど、学生時代からやたら圧が強くて。物怖じしないといえばいいようだけど、完全なパワハラ体質のオヤジよね」 この人の下で働いている貴史を想像すると可哀想だと思ってしまう。よく勤めている。だいたいこの上司に認められたから年俸も上がっている。それはつまり、貴史はどういうわけか、このパワハラオヤジに気に入られている。 「でね、こいつ、とんでもないのは仕事のやり方だけじゃないの。もう四十になるけど独身」 「あ、そうなんですか」 独身だっていいではないか。珍しいことではない。 「彼の性的嗜好の対象は男」 怜子は、美香がなにを言ったのかしばらく理解できなかった。「せいてきしこう」。日常会話に出て来る単語ではない。 「男が好きなのよ、彼」と美香はダメ押しする。 はじめて意味を理解し、さっき想像した角多の下で働く貴史の姿を再び思い描き、おぞましくなった。気に入られている、その意味がおぞましい。 「いまから見せる映像は、怜子にはショックかもしれないけれど、心して見て欲しいの。これはあなたの大切な旦那さんの問題だけじゃなくて、あなたの問題でもあるんだからね」 この言葉も怜子には素直に入って来ない。ショックな映像。自分の問題。なぜ、怜子まで関係するのか。角多に会ったこともないのに。 「でははじめます」 美香はスマホを操作して動画を再生した。フル画面に、よく見えない光景が映る。よく見えないのはそもそも映像が暗いからだ。赤っぽいランプに照らされた人たち。最初は静止画かと思ったが、やがて複数の男たちの背中だとわかる。神輿を担ぐ男たちを連想する。みな筋肉質の体。しかも上半身は裸だ。下半身はよく見えない。 美香は微笑みながらボリュームを上げる。 「はあ、はあ、はあ、お願いです、もっと、犯して」とか細い声がする。 どっと笑い声が起こる。急激に映像は鮮明になる。赤っぽいランプが青っぽくなったからだ。色はその後も赤、青、紫、緑と変化した。 「よーし、行くぞ。おれで何人目だ」 「ありがとうございます。十七人目です」 「中に出してやるからな」 「はい、お願いします」 それはまさかと思うが、もしかすると貴史の声ではないか。 背を向けた男が少し動き、やがてうめき声。さらに男は単純な腰使いをはじめた。下半身も裸だった。その動きは乱暴そのものだ。倍速の映像ではないかと思うほど激しい。 「ひー」 か細い少女のような悲鳴は続く。 ★AI通信 被虐願望★ Kindle版はこちらへ AI(PixAI)によって生成した画像を使用。画像は100点収録。構成と文は、あんぷらぐ(荒縄工房)。自分の中に芽生えた欲望。それは「被虐」。被虐とは、しいたげられ、残酷な仕打ちを受けること。被虐願望とは、自らそれを望むこと。私を恥ずかしい目に遭わせて。住宅街でも郊外でも観光地でも、どこでも。オフィスでも学校でも廃屋でも。ゴミ溜めでも、汚いドブ川でも。泣いてもわめいても、やめないでください。 ★AI通信02 若妻奴隷★ Kindle版はこちらへ AI(PixAI)によって生成した画像を使用。画像は120点収録。構成と文は、あんぷらぐ(荒縄工房)。若き妻。彼女は夫以外の男を知らなかった。そのまま幸福で平和な生涯を送ったかもしれない。しかし彼女には、許されなかった。夫によって、あるいは誰か知らない者によって、それとも彼女の選んだほかの誰かによって、彼女は奴隷として生きる道を選ばされた。巻末に「家畜妻契約書」(『家畜妻の歌』あんぷらぐ著より)。 ★AI通信03 愛奴志願★ Kindle版はこちらへ AI画像集。155作品収録。愛奴として生きたい、と熱望する全国の女性たちから届いた自己紹介の写真をまとめてみた。言葉としては美しい「愛奴」も、その実態は自らの淫らな欲望を実現してくれる飼い主を切望しているのだ。ただの奴隷となるのか、愛すべき奴隷になれるのかは、あくまでも彼女たちの態度しだいだろう。 今日のSMシーン シネマジックSM史 縄虐愛奴伝説8森川いづみ2,280円 |








