隣の肉便器さん(期間限定ver) 46 最終回
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前回はこちらへ 「お騒がせしました」 僕はリュウさんを紹介する。 「あのボードがあったので、すごく心配していたんです。もしや、ナポリンになにかあって、病院とかかもと……」 オサムは野太い声で言う。その声に呼応するように、ナポリンも意識を取り戻した。 「ああ、ご主人さま!」 泣きじゃくる。だが、起き上がることができず、美希が手を貸して座らせた。オサムが駆け寄り、ナポリンを抱き締めた。 「心配させたみたいでゴメンな。砂漠で強盗に遭って、パスポートもなにもかも取られちゃって。近くの家までガイドと一緒に必死で辿り着いたんだよ。それで日本企業の駐在事務所に駆け込んで事情を話したら、僕が逮捕されていることになってるって知ってびっくりしてさ」 逮捕されたのはオサムのパスポートを持っていた強盗たちだった。 パルダ国はオサムの行方がわからず、必死に捜索したらしい。 「よかった、無事で」 ナポリンはそうつぶやきながら、また意識を失っていった。 「ちょっと寄ってくださいよ」 リュウさんに開放廊下で声をかけられた。 あれから二ヵ月。僕たちは肉便器ナポリンを介して、不思議なご近所付き合いをしていた。 幸い僕はクビにはならず、広報は向いていないと営業に回されたのだが、営業はさらに向いていなかったので、二ヵ月やったら転職しようとしたところ、最初の一週間でトップセールスになってしまい、幸運ってのはどこに隠れているのかわからないものだな、と唖然としていた。生涯でもっとも多額なボーナスに震えが止まらなかった。僕はいずれタワマンに住むようになるのかもしれない……。 転職活動は継続中だけど、自分に営業センスがあるとは思えないものの、カウンセラーに相談すると「ぜったい向いている!」と言われ、転職するなら営業だとさえ言われてしまい、だったらいまのままでもいいと思いはじめていた。 美希は相変わらず。普通に仕事をし、あまり主婦はせず。ナポリンといちゃつくのが楽しみになっていて「私って、レズだったのかも」と言い出して笑わせてくれる。 もちろん夫婦のセックスも順調だけど、以前のように「子作り」はまったく考えなくなっていた。むしろ避妊している。 リュウさんは……。 ときどき509に顔を出して拷問に参加するものの、何を考えているのか確かめたことはなかった。 だから、呼び止められたのに少し驚きつつ、面倒な気もした。 「時間はとらせません。一分でいいです」 「なんですか?」 「見てほしいだけですから」 だったらいいか。 僕は、507にお邪魔する。 「あれ?」 蝋燭のニオイ。普通はしないものだ。ナポリンの部屋ではよく感じるけど。 「どうです」 このマンション、間取りの選択によって一部屋を和室にできる。金井はその和室を僕に見せる。リビングの横で、玄関からは死角だ。襖を外していて、畳の上にブルーシートを広げていた。 「な、なんですか!」 驚いたのはそこに、女がいたからだ。 「十露盤ってやつですよ」 角を上にして並べられた角材の上に、襦袢姿の細身の女性が正座している。縛られ、口には手拭いで猿ぐつわ。 「206の奥さんです。肉便器二号です」 「ええええっ!」 「ここを、和式の拷問部屋に改造しようと思っています。いいでしょ。ナポリンもここで責めてみたいですね」 「えええええええ!」 リュウさんはうれしそうに、女の剥き出しの腿に足をのせて体重をかける。 「石抱き拷問もやりたいんだけど、まだ適当な石が手に入らないものだから」 チーンと電子レンジが音を立てて、僕の夕飯がテーブルに並ぶ。 美希は「へえ、それで?」と興味津々。 「驚いたよ。206の奥さんって四十代ぐらいだよね。理事会で顔見知りらしくて、そのご夫婦とお酒の席でナポリンのことを話したらしいんだ」 「マジ?」 「最初は匿名。このマンションの話でもなく、誤魔化していたらしい」 するとその熟年夫婦は「私たちもSMに興味があるのです」と言い出し、リュウさんに緊縛や江戸時代の処刑とか拷問の話をしてきたという。 「いま頃、ご主人も帰宅して、お隣で奥さんを拷問しているよ」 美希は「ふー」とため息をつく。 「両隣が肉便器ってこと、ある?」 オセロだったら、美希も肉便器になっちゃうじゃないか。 「あ、だめよ。私はダメだから」 美希はすぐさま否定する。僕はなにも言っていない。 「オサムさんには抱かれてもいいと思うけど、金井さんとか、206の旦那さんとなにかするなんて、ぜったいムリ」 僕もそれはいまのところ、避けたい気がしている。 「だけど興味はあるよね?」 美希は返事をしない。いつもなら、僕の前に座っていろんな話をするところなのに、それもしない。立ったままぼんやりとしていた。 「やっぱり、それはダメだわ。ムリ。これ以上は深い入りしないようにした方がいいと思うの」 そりゃそうだ。リュウさんの暴力はホンモノだ。ナポリンを公園で乱暴に扱った光景が忘れられない。キレたらとんでもないことになる予感がした。 「だけど、放っても置けない……」 美希はつぶやく。「あの金井って人が、その奥さんにとんでもないことをしたらマズイから、誰かが見張っていないといけない……」 ああ、それはナポリンのときにも、そんなことを言ってたけど。 「私たちが見ていないと……。事故が起きてこのマンションが大変なことになったらマズイわ」 「つまり……」 「行きましょ。いますぐ。ナポリンたちに声をかけて507に集合よ!」 結局、そうなるじゃないか。 といったわけで、僕たちの不思議なプライベートははじまったばかり。 美希はナポリンに電話をし、次にリュウさんに電話をする。 そんな声を聞きながら、アツアツのラザニアを食べてビールを飲み、こういう生活があってもいいのかもしれない、と思うしかなかった。 「早くして。お隣に行くわよ!」 美希はもう玄関で靴を履いている。 ★今回でこの作品は完結です。例によって期間限定公開のため、予告なく消えますのでご了承ください。次回作は未定です。お読みいただき、ありがとうございました。あんぷらぐ(荒縄工房) ★隷獣 郁美モノローグ版★ Kindle版はこちらへDMM.R18版はこちらへ DLサイト版はこちらへ 女子大生がケモノとして飼育される 山ガールを楽しんでいた郁美は、同級生の有希恵に「隷獣」としての素質を見出され、山小屋でケモノに堕ちるための調教を受けるのだった……。伝奇SM小説『隷獣』は、郁美のモノローグに書き改められ、ブログにはない結末が追加されています。 ★隷獣2秘木編★ Kindle版はこちらへ DLサイト版はこちらへ FANZA版はこちらへ 『隷獣』(郁美モノローグ版)の世界観をそのままに、肉便器とされていた母を持つ娘・志絵乃を中心に描く。行方不明になった母を追う学生・志絵乃と、教頭の息子で同級生の豪太。クールな若き首領、地下アイドルに扮しながらチャンスを覗う敵対する四姉妹。 今日のSMシーン 突然消息を絶ったエリート捜査官のその後…。BEST山岸あや花(山岸逢花)2,180円 |








