隣の肉便器さん(期間限定ver) 32
前回はこちらへ 一緒にやるから意味がある。僕と美希は夫唱婦随。きれにハモってなんぼのものだ。 一方が醒めているのなら、それはやらない。やらなくていいことなのだ。少なくとも一緒にやることではない。 「やってください」 「待って」 ナポリンには僕たち夫婦のことには立ち入ってほしくない、とその瞬間強く思った。 あの人ならこう叫ぶに違いない。 「なんて日だ!」 僕と美希の間に起きたはじめての事態。 分裂。仲間割れ。反抗。無視。そして離婚。ここからは、お互い別の道を歩きましょう的な事態。 だいたい、すでになってるじゃん! 美希はいま別の道に行きかけてるじゃん! 僕も行くよ、そっちに。行きたいよ。誰か、そうオサムがいたら、彼がナポリンのまんこを破壊するだろうし、その行為を僕と美希はコーヒーを飲みながら遠くから見ていればいい。 舞台に上がるのと、客席で見るのとでは大違いなんだから。 僕だけ舞台に上げるなよ。 それって……。 「敵前逃亡だ」 「え? なんか言った?」 美希はようやくカップを離した。ほとんど飲んで空になっているのだ。それでも僕と話をしたくないものだから、カップを口につけていたのだ。 「敵前逃亡だ」 大事なことだからもう一度言う。 「なによそれ」 「美希だけ、そうしているのって、敵の陣地に総攻撃してバタバタと倒れていく若者を見ながら、ビスケットを囓ってお茶を飲むナチスの将校みたいな態度じゃないか」 まったくの想像による妄言である。僕はナチスの将校のことなんて大して知りもしないのだ。映画『イングロリアス・バスターズ』で見た程度のことしか知らない。ああ、この映画のタイトルはまさに僕たちにも当てはまりそうだな。不まじめで恥ずべき野郎ども。野郎は僕しかいないけど、ペニバンでナポリンを犯す悦びを知った美希も、野郎みたいなものだ。 そうだ! いまさら、素知らぬふりなんてできないんだぞ! 「意味、わかんない」 一緒に見たじゃないか。百五十三分もある映画なら最初からそう言ってよね、だって僕だって知らなかったし、メチャ長いじゃん、終わったと思ったらまだ続くし、だけどハラハラドキドキですごかったよ、すごかったけど三時間も映画館にいるなんて……。 そういえば、あの頃だって、これに似たことはあったんだな。 ちょくちょく、やらかしているんだ、僕と美希は。 「んんんんん」 なにかナポリンがわめいているけど、いまはそれどころじゃない。僕と美希の問題。 ナポリンはしっかり磔にされているので、なんの心配もない。 磔にされて顔にマスクをつけられて、なにもされないばかりか、夫婦ゲンカっぽい音声が聞こえるって、まさに拷問だよね。 たぶん。 じゃ、拷問中ってことで。 「やらない方がいいかな」 「そういうんじゃなくて……」 美希はすねるようにカップを洗いはじめる。人の家のキッチンなのだが、同じマンションで同じ間取りの相似形だからか、まったく違和感というものがない。 自分たちの部屋じゃないかと錯覚するほどだ。玄関の向きがなぜ違うんだ、と驚くぐらい。 「じゃさ、おれ、どうすればいいの?」 「やればいいじゃない。やりなさいよ。ナポリンのまんこをぶちたいんでしょ」 「いやいやいやいやいやいや」 そもそも、これはナポリンが言い出したことで、僕じゃない。僕はナポリンと浮気しているのでもないし。 まんこを本気でぶちのめしたいと思っているわけでもないのだから。 男ってそうなんでしょ、どうせ暴力なんでしょ的なやつか? 男だからこう、女だからこうって決めつけは二十一世紀になってから先進国ではやめようぜってことになっていたんじゃなかった? それともトランプ大統領が蒸し返したんだっけ。 まいったな。萎える。 いや、萎えるとか言うと、それが精神的な退潮のことではなく、チンポのことだと解釈されるからオスには不利な表現じゃないか。 広報をやっていると、差別発言だとか炎上だとかLGBTQとか権利とか少数派とかジェンダーとかいろんなことに気を使う世界なんだけど、ここは僕と美希とナポリンのプライベートな空間で、しかもナポリンは「自分のまんこをぶちのめして」と熱望している肉便器さんなんだぞ。 正直、隣りにたまたま越してきた、キュートだけど変態性欲によって成り立っているような女子によって僕と美希の間に亀裂が入るとしたら、そんなことは許せない。 ただ、それを口で説明しようとしたら、ナポリンを悲しませるだけだから、僕にはできない。 ええぃ! じゃあ、どうすればいいんだ。なにが正解なんだ。 オサムはこんな疑問にとっくに正解を出していたのではないだろうか。 なんとかしてくれ、オサム! ナポリンにはあなたが必要。 ゾッとしたのだが、もしオサムが悪いことをしたりスパイだったりヤバイ人だったりして永遠に帰国しない、すでに死んでいるなんてことになったらどうしよう……。 旅の間だけ、ちょっとお借りしていたものを、一生面倒を見るなんてことになるとしたら? ナポリンがいる生活……。 つい数時間前には、素敵だと思ったのに。 いまは地獄。 毎日、帰宅すると美希がミキリンになっていて「おかえりー」と言いながら「ご飯にする? お風呂にする? それとも拷問にする?」とか聞かれて、風呂の前にナポリンを拷問にかけたりする生活なんて……。風呂上がりにビールを飲みながらテレビを見ながら、ミキリンがナポリンを拷問しているのを横目でチラッと見たりして「手ぬるいな」とかつぶやくような生活。 ボロボロになっていくナポリンを、だけど自殺させないようにいたぶり続ける生活って、いったいなんだろう。 それに慣れきってしまった自分はなんだろう。 「やめようか?」 美希に声をかけた。 「んん?」 「もうやめにしようか。ナポリンを解放して、僕たちは自分の部屋に戻る。前と同じ生活に戻る。僕たちはお隣さんにはいっさい、関わらない」 今度は美希がため息をついた。 「試しに、いま、部屋に行ってみない?」 「いいよ」 僕と美希はナポリンを放り出して、外に出た。 外は真っ暗だった。でも夜の空気は新鮮でいい気持ちがした。 いまが何時かもわからない。寝なくちゃ。風呂に入らなくちゃ。ニュースをチェックしなくちゃ。溜ったメールやメッセージをさばかなきゃ。仕事しなくちゃ。会社行かないと……。 ぶわっと日常が僕を囲んだ。 部屋に戻り、電気をつけて、テレビを見て。 「戻れるわけないわよね」 美希がつぶやく。 ナポリン・ロス。 ★共用淫虐妻・千春★ PDF版 DLサイト PDF版 FANZA Kindle版 前編 Kindle版 後編 小説『十二階』一部、二部を改題・改稿した作品です。 新版となっています。縦書き。PDF版は全編。Kindle版は前後編。 十二階に住む達也に頼まれ、千春の調教を引き受ける。彼女の奥底にある危ういまでの被虐性を知り、厳しい調教を行う。さらに達也の提案でマンション全体の「共用」として千春を住人に貸し出す。特殊なペットとして改造にも踏み出す。語り手の調教役を男性にし、表現を大幅に変更。ストーリーの骨格は小説『十二階』一部、二部と同じです。 ★小説『十二階』第一部★ DMM.R18でのみ販売中。旧版。原点です。とあるマンションで人妻を徹底調教する。千春は夫の決断で同じマンションに住む敏恵に調教を委託することになった。激しくも甘美な調教で、昼夜を問わず若妻は被虐にどっぷりと染まる。 ★小説『十二階』第二部★ DMM.R18でのみ販売中。旧版。原点です。調教はマンションぐるみとなり、千春には衣服もプライバシーもなくなってしまう。住人に貸し出される人妻は、さらに苛烈な運命が待っていた。 今日のSMシーン 流川はる香 緊縛解禁ー。秘めた欲望を夫の部下に暴かれて…麻縄に溺れた社長夫人流川はる香2,180円 |